掃除機ごみパックの放射能を測定する試み
ある市民放射能測定所にて掃除機のごみパックに溜まった「塵(ちり)」を測定する試みが続けられています。(%1)
測定結果が公開されていますので、その測定値を元に簡単な解析をしてみましたので、ご報告します。
○方法:
1.仮定
ヨウ化ナトリウムシンチレーション式ガンマ線スペクトロメータに掃除機ごみパックをセットして、放射性物質(放射性セシウム137と放射性セシウム134)の濃度を計測しています。
この場合、以下の仮定において、測定結果の比較が可能となります。
仮定1)放射性物質濃度の定量的な校正を目的に使用した「標準線源」を満たした容器と同一容器を用いている。
仮定2)検体は、容器の所定体積の中に、すき間無く、均一に充填されている。
2.数量での比較
測定結果には、重量(g)、放射性セシウム137の濃度(Cs-137(Bq/kg))、同じく放射性セシウム134の濃度(Cs-134(Bq/kg))の他、試料情報として塵(ちり)を採取した場所と、収集した期間の記載されているものもあります。
そこで、上記結果を用いて以下の値を計算します。
数量[Bq] = 放射性物質濃度 [Bq/kg] * 重量 [kg]
また、塵(ちり)を収集した期間の判っているものについては、1日あたりの数量を計算します。
1日あたりの数量[Bq] = 数量 [Bq] / 収集した日数
○結果:
以下の表がその計算結果です。
fujimiiru_tweet201403101850.xls
(1)数量は大きかった順に、
85.5 [Bq]
45.8 [Bq]
39.2 [Bq]
でした。
(2)1日あたりの数量は、大きかった順に
1527 [mBq/日]
290 [mBq/日]
203 [mBq/日]
でした。(※ 1mBqは、0.001Bqです。)
この測定所が公開したデータの中で最大値を示したケースでは、
1日あたり約1.5ベクレルの数量の放射性セシウムを含む塵(ちり)を掃除機が集めたことになります。
■補足
「仮定2)検体は、容器の所定体積の中に、すき間無く均一に充填されている。」を満たしていない場合に何が起きるのか。所定体積に検体が満たない場合に、測定結果にどのように影響を与えるのか。この点につきまして、以前、計測実験をしましたので、詳細は次の記事をご参照ください。
・検体体積精度と放射能測定誤差の関係
http://imeasure.cocolog-nifty.com/isotope/2012/09/ishl-db48.html
結論だけ述べると、所定体積近傍にて、「所定体積よりも、体積が10%少ない状態で測定した場合は、放射能測定結果は、約5.7%大きい値を示す。」
直感的に何が起きているのかを理解するためには、以下の図が分かり易い。
(出典:山田崇裕「放射線計測の信頼性について」)
これは、センサ(Ge)から見た、「感度」の等高線である。センサに近い所ほど、感度が高い。センサから離れる程、感度は低下する。そのため、検体の中に、放射性物質が「均一」に分布していた場合と較べて、もし、局在した場合(例えば、底に放射性物質が集中しているなど)、本来容器の所定体積の中に均一に分布していることを前提に校正された装置にて得られる放射性物質濃度は、正しい値を得られない。(例えば、底に集中している場合は、真の値よりも大きい値として計測される。)
(%1) 出典:みんなの測定所・ふじみーる
https://twitter.com/fujimiiru/status/442960610037211136
(2020.2.10リンク切れ)
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