デジカメのノイズと放射能測定結果の誤差の話題
デジカメのノイズと放射能測定結果の誤差の話題
今回は、誤差の話です。
燕山荘から見た松本市の夜景
:
携帯電話(iPhone5)のカメラで撮ったこの夜景写真のノイズについて考えてみます。そして、デジタルカメラのノイズの話題と食品放射能測定値の誤差の話を繋げてみようと思います。
ゲルマニウム半導体検出器で測った食材の放射性セシウム濃度の測定結果を見る機会があったら是非良く数字を見てください。
例えば、こんな感じ、
Cs-137: 2.0 ±0.4 Bq/kg
Cs-134: 1.0 ±0.3 Bq/kg
この±の右側にある、0.4 や0.3 についてのお話です。
□■□
もし貴方が体重計に乗った時、
48 ± 8 kg
と表示されていたとしたら、理解できるでしょうか?誤差の考え方からすると、次の表現となります。
貴方の体重は
A: 40〜56kgの間です。
B: 32〜64kgの間です。
C: 24〜72kgの間です。
Aの確率は、68.3%
Bの確率は、95.4%
Cの確率は、99.7%
まあこんな体重計は使い物になりません(^^)
□■□
先のゲルマの測定結果は日常生活の感触でいえば、このように、「使い物に成らない体重計の誤差」程度で、セシウムが有った無かったを議論しています。
覚えておけば良いのは、Cのランクで判定する事です。
例えば、
Cs-137: 2.0 ±0.4 Bq/kg
Cs-134: 1.0 ±0.3 Bq/kg
であれば、
±の右の数字を3倍して「足す」
Cs-137: 3.2 Bq/kg ( = 2.0 + 3 * 0.4 )
Cs-134: 1.9 Bq/kg ( = 1.0 + 3 * 0.3 )
同じく、±の右の数字を3倍して「引く」
Cs-137: 0.8 Bq/kg ( = 2.0 - 3 * 0.4 )
Cs-134: 0.1 Bq/kg ( = 1.0 - 3 * 0.3 )
となります。
ーーーーー
逆にいえば、もし、以下のような放射能測定データがあったとしたらとしたらどうでしょうか。
Cs-137: 2.0 ±1.5 Bq/kg
Cs-134: 1.0 ±0.8 Bq/kg
これは、かなり慎重に判定しないといけません。
何故なら、測定結果は、±の右の数字(誤差とか、σシグマとか、標準偏差とか呼びます)とほぼ一緒の値だからです。例えば、-3σを計算してみますと、負の値つまり、放射性セシウムが、全く存在しない、可能性もある測定結果だからです。
( 2.0 - 3* 1.5 = -2.5 )
( 1.0 - 3 * 0.8 = -1.4 )
□■□
日常生活でも、実はこの程度の誤差の世界に触れる機会があります。
それが薄明や日没後の夕暮れや夜景写真です。
写真が撮れる原理を復習します。
写真は、構図、ピント、露出が決め手です。
露出は、「ISO感度」、「シャッター速度」、「絞り」で決まります。
ISO(イソ)感度は次の定義でした(デジタルの時代になってもっと複雑だけど基本の考えは一緒)。
「晴天時、シャッター速度:1/125秒、絞り:11で適正露光となるフィルムがISO感度100」
これは光量計算すると、フィルムの上で、照度が幾つか計算できます。
(※)デジタルカメラの時代になって、センサの寸法が分かれば、センサがどの程度の光を蓄積してるのか計算できます。
具体的に数字で追って見ましょう。
(※ 照度ルックスは、ルーメン/m^2。555nmの光なら680 ルーメンで1ワット。アインシュタインの式から、555nmの光子1ケのエネルギー(J:ジュール)が計算できますので、単位面積あたりの光子数を求めることができます。)
□■□
初代iPhone3GSに搭載されたカメラの画素数は、200万画素でした。画素というのは、絵を構成する点の数。
最近モザイクアートというのがあります。集団で絵を表現する時一個一個は単色ですが、遠くから全体をみると、絵になっている、アレ。この一つを画素(pixel)と呼びます。
例えば、200万画素のデジタルカメラの場合では、縦横それぞれの辺に沿って、1800 画素 x 1200 画素 が格子状に並んでいます。(厳密に計算すると216万画素です。)
センサーは一つの画素当たり貯めることのできる光量が決まっています。それ以上の光を入れても溢れ出てしまうだけ。更に、「光」は粒子として数えることができます。
一個一個の光の粒を光子と呼びます。
ミツコ ではなく、コウシ と読みます(^^)
それはちょうどバケツに「ビー球」(びーだま)を入れるのに似ています。高級一眼レフデジカメのセンサーでも、一つの画素に入れられる光子の数は高々、3万個程度です。
(※)つまり、例えれば、バケツに3万個のビー玉を入れて、それを200万個バケツを集めて、1800 x 1200の格子に沿って綺麗に並べてる。これがデジタルカメラ(携帯電話のカメラ)と言えます。
(※高々、3万個程度: 印刷会社向け最高級CCD式イメージスキャナ用に開発したKodakのセンサで、かつて、100万個の光子(正確には、電荷量)を蓄積できるセンサが有りました。)
□■□
さて、話を分かりやすくするために、3万個を25,500個ということにしておきます。
年賀状でデジカメ写真を加工したことの有る人は、写真の明暗が幾つの段階で表現されてるかご存知かもしれません。答えは、0-255の256段階です。赤、緑 、青の色毎にこの濃淡があり、これらの値が、撮影された画像ファイルとして、カメラの(携帯電話の)SDメモリーに保存されます。
ここで255とは何かというと、
その画素に光子が25500個溜まった(*2)と言う意味です。
ただしこれは最高級一眼レフデジカメの話です。スマートフォン(iPhone)のカメラはそうは行きません。1/10程度です。(35mmセンサが3.5mmになり画素数が1/10になれば画素面積は1/10)
よって、
255という値を画像ファイルのデータとして保存されたということは2550個の光子がその画素に溜まった。ということになります。
つまり、
255とは2550個の光子が溜まった。
以下同様にして、
128とは1280個の光子が溜まった。
10とは100個の光子が溜まった。
1とは10個の光子が溜まった。
ってことになります。
〜〜〜〜〜
1800 x 1200 の格子状に並べられたバケツ 200万個に、それぞれ、ビー玉が入っている状態をイメージしてください。
溢れる程入れると、2550個。
全く入っていないと、空。
そうした状態で並んでいると想像してみてください。
□■□
ここでいよいよ誤差の原因の話です。
10の値の時には、100個の光子がその画素に溜まっているのですが、実は、自然現象ですのでこの数には必ず「揺らぎ」があります。
100個が「真」の値である場合、ある時は100個ある時は90個ある時は110個という具合です。
この揺らぎに起因するノイズ成分の事をデジタルカメラやイメージスキャナの世界では、「光ショットノイズ」と言います。
より一般用語では、こうした揺らぎの由来となる自然現象を「ポアソン分布」と呼んでいます。
「ポアソン分布」において、1つの画素に溜まった光子の数として、100個が「真」の値とした時に、どのくらい揺らぐのかは、「平方根」で決まります。
平方根(100)=10
(iPhone持ってる人は計算機にして横長にひっくり返して100 √ とボタン押してください。)
どんなにセンサの感度を上げ、どんなに技術革新によってノイズを下げたとしても、どうしても取り切れないノイズが、このポアソン分布由来のノイズとなります。
よって、この場合の「誤差」は、
100 ±10 個
ってことになります。
つまり、「
値に対して、1割が揺らいでいる」
訳です。
さっきのセンサの値に戻すと、
10とは100個の光子が溜まった。
訳ですから、
空の明るさが 10 だったら、その1割、1だけ揺らいでいる。
それを誤差表記すると、
10±1
ってことになります。
3σまで考えると、
10 + 3 * 1 = 13
10 - 3 * 1 = 7
となります。
よって、デジカメの値は、7~13までの任意の値を取るわけです。
本来は一定の色であるべき場所が、RGBのカラフルな偽色のある非常にノイジーな画像になる。
7,8,9,1011,12,13の何れかの値に揺らいでる。
これが、本日の最初に出した夜景写真の偽色
(本来黒、青、オレンジの連続色だったはずなのに、ブツブツと偽色の空となっている)の原因です。
(以下宿題^^)
さて、では殆ど真っ暗で、
値が1だった夜景の空はどのくらい値が揺らいでいるでしょうか?
これが今日の宿題です。
(この記事の最後に宿題の答えが有ります。)
□■□
宿題はお任せして(^^)
誤差の話に少し戻ります。
中学3年のお子さんを持った経験があれば、「偏差値」って聞いた事が有ると思います。
偏差値とは、テスト結果から得点を分類して、50点±10点に当てはめ直した点数です。テストの難易度、受験生の賢さ、に関わりなく、まず平均値を50点に強制的にシフトする。そして次に、集団の68.3%の人数を平均値の±10点の範囲に入るように、平均点からのハズレ程度を比例的に修正(拡大、もしくは縮小)する。
そうした操作をした結果、
偏差値50±10点:40点〜60点の範囲に、全受験者の68.3%が含まれる。
偏差値50±20点:30点〜70点の範囲に、全受験者の95.4%が含まれる。
偏差値50±30点:20点〜80点の範囲に、全受験者の99.7%が含まれる。
ということになります。
例えば、偏差値80点以上ともしくは、偏差値20点未満を取る者は全集団の内の0.3%(100-99.7%)しかいない。ということになります。
なので、誤差の3倍で判定した放射能測定結果を説明する時にこんな言い方が可能です。
Q: 放射性セシウムのこの測定値はどれ位信用できますか?
A:貴方が偏差値80点以上や、偏差値20点未満を取った事の無い人に出会う頻度で信用できます。
□■□
ゲルマニウム半導体検出器の場合、検出しているものは、光子ではなく、ガンマ線ですが、実は、挙動としては全く同様です。(*1)
つまり、1ケ、2ケとガンマ線は数えることができます。
サーベイメータやGM管で、音が鳴っているのを聞いたことがあると思いますが、あの音が、ガンマ線がセンサに入射した1つ1つを捕らえていることを意味します。
放射能測定結果が、誤差を含み
Cs-137: 2.0 ±0.4 Bq/kg
Cs-134: 1.0 ±0.3 Bq/kg
と言った表記をする理由は、先ほどのデジタルカメラの夜景の暗いところのノイズと全く同じ現象であり、「ポアソン分布」由来の揺らぎが有るためである。ということができます。
□■□
宿題の答え
Q:値が1だった夜景の空はどのくらい値が揺らいでいるでしょうか?
A:1とは10個の光子が溜まった。
いうことですので、10個の光子の揺らぎをまず計算します。
√(10) = 3.16
よって、
10±3 個
+3σは
10 + 3 * 3 = 19
-3σは
10 - 3 * 3 = 1
よって、
光子の数は、
1,2,3,4,5,6,7,8,9,1011,12,13,14,15,16,17,18,19
の値の範囲の任意の個数に揺らぎます。
これは、撮影したデジカメの画像ファイルの値としては、10個の光子の時に、値1になる関係ですので、
1~4が、0
5~14が、1
15~19が、2
となります。
従って、画像ファイルの暗部の値は、0,1,2のいずれかの値に揺らぎます。
これは、Red,Green,Blueのそれぞれの色の画素について、ランダムに揺らぎます。
そのため、本来は、殆ど
黒(R,G,B=1,1,1)
で有るべき場所が有ったとした時を考えることにします。
揺らぎのために、例えば、
(R,G,B= 1,0,0)となった場所は、赤い点になります。同様に、
(R,G,B= 0,1,0)の場合は、緑の点、
(R,G,B= 0,0,1)の場合は、青の点、となります。
これらの結果が、暗部において、カラフルな不均一な偽色の原因となります。
□■□
(*1) 正式には、ガンマ線も可視光と同じ、電磁波の一種であり電磁波の持つ光エネルギーの量子性(粒として観察される)の観点では、ガンマ線も光子です。
(*2)「画素に光子が25500個溜まった」
デジカメなどに使われている光センサは、シリコン半導体を使って入射した光子1つに対して、1子の電子を発生させます。従って具体的に溜まるのは「電子」です。
おまけ
槍ヶ岳と金星(これもiPhone5)
最近のコメント