ブラックホール写真ふたたび
twitterをやっていると、ときどき強く共感するtweet に出会う。
@takeonomado の2022/5/8のtweet : https://mobile.twitter.com/takeonomado/status/1523237025897324544
量子力学を20世紀初頭に切り開いた天才群の1人がシュレディンガーだった。
大学で量子力学を習うと必ず試験に出てくる状態方程式。この式を生み出した天才がシュレディンガー。
その彼は、1944年に「生命とは何か」という全く彼の物理学という専門外のテーマの本を出版する。
これはつまり「世界中の天才達よ、未だ開拓されていない知のフロンティアは、生命だ!」
という号砲だった。その結果、たった11年後の1955年に、人類は生命伝達のメカニズムであるDNAのX線構造解析に成功し、例の二重螺旋構造が発見される。そして何故、父母からうまいこと命が伝達されていくのか、そのメカニズムの解明に成功する。
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量子力学が生まれる前は、例えば光に関しては、波動説と粒子説が激論を交わしていた。
もし光が波動であるならば、音が空気の振動によって伝わるように、星からやってくる光が地球に届く為には宇宙空間に伝達物質が有る筈。それを「エーテル」と名付け、研究者は宇宙空間にエーテルを一生懸命に探す。しかし見つからない。
一方、原子は、陽子、中性子、と電子から構成されている。そう判ると電子の振る舞いに決定的な疑問が生じた。荷電粒子である電子が陽子の周りをぐるぐる回っているのだとすれば、電磁波を放射してエネルギーを失いやがて、陽子とくっついてしまうはず。でも現実はそうならない。
こうした、実験により得られる事実と、それを説明する仮説、仮説により演繹される現象、その現象の検証実験、とぐるぐる回って20世紀初頭に量子力学が開花した。
科学はこうしてパラダイムシフトを繰り返してきた。
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近年では、2019年に「地球サイズの望遠鏡」を使って、M87という獅子座の東にある、かみのけ座の中の銀河にあるブラックホールの写真が発表された。世界初だった。
波長1.3ミリメートルの電波が1波長進む時間よりも短い時を正確に計測できる原子時計を使って、M87からやってくる電波の強度を記録する。
世界中で同じM87に電波望遠鏡を向けて、同じ時刻に同じことを行う。
これらの観測データ(時間軸に対する強度変動だから、音と同じだ。)
を地球上の8箇所からかき集めて、計算機にかけて「合成する」
いわゆる野辺山電波観測所で開発され、南米ALMAでも活躍する「干渉型電波望遠鏡」のしくみだ。
その結果、あたかも地球規模の電波望遠鏡をM87に向けて得られたのと同等の角度分解能のデータを得ることができる。
そうして、ブラックホールの写真撮影に成功した。
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繰り返し再現性は、科学の発展の基礎である。さっそく、このM87の生データを使って、検証した研究者が現れる。
当時、天文学者の三好先生が、神戸大学で行ったセミナーの動画を見て驚いた。
https://www.cps-jp.org/modules/mosir/player.php?v=20200117_01_miyoshi
00:59:00 ~ 01:05:00 あたり
(ImageJを使って2次元画像と、フーリエ像を行ったり来たりしたことのある人には、ピンとくると思う。)ブラックホールの画像の撮影成功の意味は、「直径に相当する大きさの黒い丸」の撮影に成功したことにある。しかし、この直径に相当するフーリエ空間のデータがスカスカなのだ。
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今年、同じグループが、我々太陽系が有る銀河の中心 射手座A*のブラックホールの写真を発表したと世界同時発表した日が、2022年5月12日。
なんとその、1日前(5月11日)に査読終了(アクセプト)した論文がある。
https://arxiv.org/abs/2205.04623
2年前に、M87のブラックホール写真に疑問を提示した三好先生の論文だ。
これだから科学は面白い。
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