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2020年7月

2020年7月26日 (日)

金箔撮影のポイント

図をイラストレーターで書き直して、公式HPに技術レポートとしてまとめました。
https://www.imeasure.co.jp/report/gold-leaf.html

ぜひこちらをご覧ください。

以下、初出記事です。

〜 副題:金箔屏風に適した撮影システムとは 〜

Gold

プロの写真家であれば、金箔屏風の撮影が非常に難度の高い被写体であることをご存知でしょう。

金箔とはいったいどんな被写体なのでしょうか。

今回は、物体の反射特性の観点から徹底的に分析してみようと想います。

まずは、原理と用語から。

1.原理と用語 〜 鏡面 〜

Fig1

まず、鏡(かがみ)に光が入って反射する様子から観察します。

図(Fig.-1)は、鏡に光が入り、反射して出て行く様を表す概念説明図です。

鏡の面に垂直な方向を面法線(めんほうせん)と呼びます。

面法線に対して、例えば角度 シータ(θ)で入射した光を観察すると、その反射光は、面法線に対して、入射したのと同じ角度で出て行きます。
この反射角度は、入射角度と同じ角度になります。

また、入射光と反射光と面法線(N)は全て、同じ平面であることを確認します。

次に、白紙での現象を観察します。

 

2.完全拡散面

Fig2a_20200727193601

入射した光に対して、白色紙は、一様に全方位に光ります。

 

図(Fig.-2)は、理想的な完全拡散面と呼ばれる状態の時の光度分布です。

 

完全拡散面からの反射光は、図に示す通り、きれいな球状態になります。

 

平面図では円にしか書けませんが、これが球状に分布している光であることに留意します。

 

3.光沢面

Fig3a

図(Fig.-3)は、鏡の表面が少し息が掛かって曇った状態を表しています。

 

実は、金箔はこの状態です。

 

特徴的なのは、鏡面反射と完全拡散面反射の中間的な挙動をしている点です。

 

ここで重要なのは、拡散光は先ほどと同じで、球状に分布していること、かつ、正反射(角などと呼ばれます)光(鏡面反射光とも呼ばれます

)は、入射光==面法線(N)==正反射光(角)が同じ平面に有る点です。

 

立体的な形は、球から1本の角が出ているような形です。

 

4.イメージスキャナの光学レイアウト

Fig4

次にイメージスキャナでスキャンする際の光学的なレイアウトです。


この図は、スキャナのレンズ光軸(被写体の面法線)、およびスキャン方向を含む面でカットした断面図です。


一般的にイメージスキャナでは、線状の光源(昔は蛍光灯、現在は、白色LEDからなる線光源)からの光を45度で入れて、その拡散反射光成分をレンズに導いて結像します。

 

この光学的レイアウトによって、例えば、光沢写真などが「テカリ」を生じずにスキャンできます。

 

「テカっている状態」とは、光沢反射成分の「角」が目や、レンズに入ってきている結果生じる現象です。

 

ラインセンサを使ったイメージスキャナは、テカリ=光沢反射光=正反射光は45度で反射して抜けて行き、結果として光沢反射成分はレンズの方向に入って来ません。

これがイメージスキャナ方式の最大の特徴です。

 

5.カメラで金屏風を撮影する

 

さて、いよいよ 金屏風をカメラで撮影するシーンを検証してみましょう。

Fig5a

図(Fig.5)は、左右に配置した照明(L,R)、カメラ、屏風 を鉛直上部から観察した構図です。

カメラ方式での屏風撮影の課題は、次の2点にあります。

 

■カメラ撮影の課題−1)

照明装置から、屏風までの照射距離が場所によって異なる。

 

つまり、これは照明ムラになります。作品の反射率が均一な紙である場合、照明ムラとしてデジタル画像が生成されます。

 

■カメラ撮影の課題−2)

 

被写体が金屏風などの、準光沢面の場合、照明装置の光沢反射(正反射)の位置に、「角」が生じ、強く光ります。

 

この2つの課題は、相反する課題です。

即ち、課題1の対策は、できるだけ、カメラの背部の遠い位置から照明することです。

被写体の屏風を球面の一部となる位置つまり、カメラ背面無限遠位置からの点光源照明が理想です。

 

しかし、この照明方向は、課題2の解決になりません。つまり、カメラ光軸正面に光沢反射が生じます。

 

更に、問題としては、作品に豊かな凹凸がある場合、影の無い眠い画像(印画紙の硬調、軟調で言うところの軟調)になります。

月齢の満月と半月と言えば判りやすいでしょうか。満月は、影の無い眠い月です。

 

以上をまとめると、カメラで撮影した屏風のデジタル画像は、その照明装置の配置を反映して、正反射の位置に光源のテカリが生じます。

 

6.一般的なイメージスキャナ

Fig61

図(Fig.6-1)は、一般的なイメージスキャナの光学的レイアウトです。

先にしめした図 Fig.-4に対して、レンズ光軸を中心にして上から見て右回りに90度回転した状態の断面図です。

 

作品上の1本の画像をレンズによってラインセンサー上に結像している様子です。

この後、紙面に垂直方向に撮影ユニット(線光源、レンズ、センサ)が丸ごと移動しながら撮影を続けて、結果、2次元画像を得ます。

 

Fig62a

図(Fig.6-2)は、上図の斜視図(斜めから眺めた図)です。

このような光学系をイメージスキャナでは、縮小光学系と呼びます。

撮影するライン (PLーPCーPR)はレンズにより、ラインセンサに結像されています。

線光源は、45度の角度で読取り撮影ラインを照明しています。

ここで特徴的なのは、線光源から、撮影ラインへの入射角度は、φ(ふぁい)で一定の角度で入射しているのに対して、

レンズへ向かう光は、PCにて、θ=0度、 PRにて、レンズ光軸(作品面法線)を含む平面にて、+θの角度、 

PLにてレンズ光軸(作品面法線)を含む平面にて、ーθの角度、となっている点です。

これはどういうことかというと、図(Fig.-3) において、角(つの)こそレンズに向かっていませんが、拡散反射光のそれぞれ異なる方向の光がレンズに入ってきていることを意味します。

7.テレセントリックレンズを使ったイメージスキャナ 〜 オルソスキャナ 〜

テレセントリックレンズを用いたイメージスキャナでは、作品からレンズに向かう光の角度が全て同一条件となっています。

ここでは、θ=0度となっています。

19_2

Osi__2

以上をまとめると次の表となります。

Table_

テレセントリックレンズを用いたイメージスキャナシステム=オルソスキャナは、このレンズに入る光の方向さえも、全ての領域で同じ条件で撮影することができます。

その結果、金属光沢反射と拡散反射の両性を合わせ持つ金箔を貼った襖や屏風のような作品であっても、

「作品全域で、照明光の入射角度と、レンズに向かう光の角度を完全にコントロールすることができます。」

 

この一週間、オルソスキャナを使った出張スキャンを行いました。

金箔を貼った襖(ふすま)作品の複製作業を行い、オルソスキャナの持つ光学制御の自由度の高さを改めて実感しました。

以上

 

 

出張スキャンしたその場で色校が完了することの意味

出張スキャンしたその場で色校が完了することの意味

 

オルソスキャナを使った出張スキャンのメリットは2点有ります。

 

■メリット1:早い。

 

スキャニングが早いだけでなく、オルソ画像のため、その場で画像接合が可能です。(Photoshopのフォトマージにお任せ)。

その結果、お客様にその場で画像を確認頂けます。

 

 

■メリット2:色校を1回で完了する。

 

大型インクジェットプリンタを現場に持ち込み、試し出力することで、作品を撮影したその場で色校を完了することが可能です。

 

従来使っていたN社の大型スキャナは、一度に撮影できる幅が、数cmだったそうです。

何故か。

非接触スキャンが必要となる文化財被写体では、ガラスなどを乗せて押さえ付けることが出来ないためどうしても作品に凹凸が残ります。

Fig2_center

一度に30cmの幅を撮影可能なセンサを使っていますが、縮小光学系による光学歪み(パースと呼びます)のため、一度に撮影可能な幅がどうしても狭くなります。

狭くしない場合は、隣のバンド画像との接合が不可能となるためです。

そのため、2m四方の撮影に、丸々1日かかっていたそうです。
スキャンが遅いスキャナを使うと、スキャン作業だけで連泊ホテルの滞在費がコストアップになります。
スキャンが速いことは出張スキャンの場合、非常に重要な機能です。

 

オルソスキャナは、スキャン速度が速いだけでなく、分割撮影した画像がその場で繋がるため、その場でプリンタ出力した色校(色合わせ)作業を開始できます。

 

貴重な作品を蔵出ししてスキャンしたその場で、インクジェットプリンタで複製画像を印刷出力をして、現物合わせで色校正を行う。

 

このことで、データを持ち帰って、最終的に襖や掛け軸などの仕立てを行い、郵送による納品も可能となるのです。

すなわち、出張が1回で完了する。

 

学芸員様の満足度(ご自身で見て現物と複製画を重ねて置いて色を合わせ込んだ納得感)、複製作成する側のコスト(幾度も出張して色校する手間が1回で済む)ともに、両者ハッピーなスキャナがオルソスキャナです。

 

2020年7月25日 (土)

出張スキャン対応 非接触式大型スキャナのラインアップ 〜 4K 8K 16K 32K 48K の時代へ 〜

今週、無事出張スキャンを終えた。

4月に予定していた出張スキャンが、COVID-19の影響で延期となり、今月に行うことになった。

滞在した自治体では、連日感染者が増加し、結局3食全てコンビニ弁当という状況でした。

(左の唇に変な出来物ができた!)

~~~

スキャンの方は順調に完了した。

このところ、出張スキャンをする度に、改造を続けている。

 

1)基本形:600mm × 1000mmのスキャン。

Img_0954_1

『無言館』BLOG記事へジャンプする

 紙でいうと、A1594x841mm)オーバー。

 光学解像度は、1200ppi, 800ppi, 400ppi, 150ppi

 スキャン時間は800ppiで、4分。

 400ppiで、3分でスキャンします。

会社のスタジオで受入スキャンする場合は、クリーンブース(HEPAフィルタ付き、クラス1万相当の設備)で行うので、埃を回避できる。

 


hepafilter
 

 

 

 1回のスキャンで得られる画素数は

 400ppi で、1.5億画素(0.15Gpixel)

 800ppiで、6億画素(0.6Gpixel)

 1200ppiで、12億画素(1.2Gpixel)

 

4Kとか8Kの言い方に換算すると、

 400ppi で、16K (8KTV4枚)

 800ppiで、32K (8KTV16枚)

 1200ppiで、48K (8KTV36枚)

相当だ。

 

2)カニさん脚付き:2.4m × 1mのスキャン。

Osic60100w240a_2

 作品をスキャナの原稿台の上で水平にミニチュアリニアガイドに沿って手動スライドして、分割スキャンする。

 50cmづつ、10cm程度重なるようにスキャンして、5回に分けてスキャン。

 作品をスライドする時間を含めて、凡そ800ppiで、1時間。

 

3)作品床置き:3.2m × 1.3m のスキャン。

 

Img_0954_1 

 

  作品を床置きして(プラダン1、プラダン2、中性紙の上)

 スキャナの下で作品をスライドして分割撮影します。

 32m方向に6分割、13m方向に2分割、合計12分割スキャン。

 およそ、400ppiで、1時間。

 

4)作品床置き:3m × 2m のスキャン。

 毎回、接合後の画像のサイズ(総画素数)は、記録を更新し、34億画素を超えます。

・そろそろ、会社のサッシを全て取り外さないと作品の受入が出来なくなりそうです。

 

5)限界の計算値

Adobe Photoshopが今のところ制約です。

30万画素x30万画素なので、900億画素(90Gpixel)までは行ける計算です。

 

400ppi画像であれば、19

800ppi画像であれば、9.5mまでとなります。

従って、床置き方式であれば、1mx19mまで(400ppi)であれば対応可能です。

 

~~~

 分割スキャンした画像が繋がる仕組み。

 

生け花の剣山をデジカメで撮影すると、レンズの特性が良く判ります。

右が、一般的なデジカメ、

左が、テレセントリックレンズを使ったシステム=オルソスキャナ

この二つの画像を見るだけで、デジカメで分割撮影した画像が、原理的に繋がる訳がない、
ということが誰でも判る。
だから、無理矢理画像を歪ませて、接続するPhotoshopの技「パペットワープ」をやるしかない。
その現場を学芸員にはお見せできないだろう。
持ち帰ってから納品までに時間が掛かる理由もそれだ。

・・・

https://www.imeasure.co.jp/report/photomerge.html

テレセントリックレンズを使ったシステムは、400ppi800ppi、と光学解像度をどんどん上げていっても、分割撮影した画像が、簡単に繋がる。

「フォトマージ」だけで簡単に繋がる。「パペットワープ」は不要だ。

例えば、、

山谷に折れ曲がっていて、

手で押さえ付けたり触れることのできないような

貴重な古地図であっても、簡単に繋がる。

 

このテレセントリックレンズシステムを採用した大型スキャナ=オルソスキャナは、

現在、

・群馬県 株式会社シン技術コンサル、 https://www.shin-eng.co.jp/cultural/sios/

・東京都 凸版印刷株式会社

・京都市 京都国立博物館、

・長野県松本市 アイメジャー株式会社、 https://www.imeasure.co.jp/product/ortho.html

に常設されている。

全て、アイメジャー株式会社製の日本国産の非接触式のイメージスキャナです。

弊社は出張スキャンにも対応しているので、

(長野県のCOVID-19往来条件に掛からない範囲で、)

全国何処へでも行きますので、お声掛けください。

→ アイメジャーの出張スキャン スキャニングサービス

~~~

技術資料:

テレセントリックレンズのシステムの詳細は、日本デジタルアーカイブ学会で発表した論文をご覧ください。

https://www.imeasure.co.jp/pdf/B31_DigitalArchiveSociety.pdf

学会のページには、研究大会で私が発表したパワポ資料も置いてありました。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsda/2/2/2_91/_article/-char/ja/

 

以上

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2020年7月22日 (水)

ガラス乾板のスキャンやネガフィルムのスキャン

ガラス乾板のスキャンやネガフィルムのスキャン

 

何度も同じ画像を繰り返しスキャンする目的

弊社が関わった 国宝屏風を撮影したガラス乾板のスキャニングについて

 

https://watsunagi.jp/craft/7449/2/

スキャニングは右隻全体を2400ppi1回、消失部分のみを1200ppi1回、さらに4800ppi7回行い、それらのデータを重ねて画像をクリアにする処理を施し、原寸大の印刷に耐える高解像度の白黒画像データを制作しました。

ガラス乾板スキャニング:アイメジャー株式会社

 

このことについて質問を頂きました。

要点のみ回答します。不明点ございましたら、直接ご質問ください。

 

ーーーーー

 

・ネガ画像は、最暗部がネガポジ変換後にハイライト側になります。 

 

・一般的なスキャナやデジカメでは、フォトダイオードの電荷コンデンサ部は1万フォトン(光子)程度で飽和します。 

 

・物理的に不可避なノイズである光ショットノイズは入射フォトン数の平方根で決まるので、1回スキャンでは、s/n比は、1001となります。これは、OD(Optical Density=光学的濃度)換算では、2.0です。

 

・ネガ画像のOD値は、2.6前後あるので、例えば、16回スキャンして加算することができれば、 16万フォトン相当となり、平方根で400:1 つまり、OD値で2.6程度までが 滑らかな画像(ノイズのない)で得ることが(原理的に)可能となります。 

 

・アナログ時代は、この手法をコンポジット法と呼んでいました。 例えば、非常に微量な光で撮影した木星惑星写真などを同じ撮影条件で何枚も撮影し、そのフィルムを印画紙に焼き付ける際に、多重露光しました。

 

・デジタル時代は加算平均とか、高解像度画素から低解像度画素を得る際に、高速化と高S/Nを両立する技として、アナログ電荷を加算する「ビニング」処理があり、これらも同じ原理です。

 

・詳細はこちらをご覧ください。 

http://imeasure.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_bd38.html

 

以上

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2020年7月 3日 (金)

人間の目の画素数は?

人間の目の画素数

 

答え: 3.1億画素。

 

計算式:

 

(1)計算の考え方 

 

まず、

視力10の定義: 視角 1分(1度の160)を分解する能力。

 

これより  

視力1で、視角60度(水平から天井までが90度)を3600分割可能。

視力2で、視角120度を14400分割可能。

 

同じく、左右 180度として、視力2で、21600分割。

 

総画素数は、 

上下120度にて、14,400画素

水平180度にて、21,600画素

ですので、

3.1億画素となります。

 

 

(2) 補足

 ここで得た数字は、人間の視神経細胞の総数を意味しません。

最も視力の高い肉眼中央で、四方八方を見るようなシーン、

たとえば、美術館で作品の前に立ってあちこちを凝視する、

ような場合を想定した総画素数です。


 即ち、これからVR向けにゴーグルを設計する設計者が、最終的に何処までの画素数を片目あたりに用意すべきか?という設計方針に対する一つの指針になる設計値と考えます。

 

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