論文紹介 浮世絵 色材 #ukiyoe
論文紹介 浮世絵 色材 #ukiyoe
昨年の11月、東京都墨田区に北斎美術館が開館するのに合わせてNHK特集が放映された。
「ロスト北斎 The Lost Hokusai『幻の巨大絵に挑む男たち』」
関東大震災で消失した北斎の作品『須佐之男命厄神退治之図』(すさのおのみことやくじんたいじのず)を、残されていた白黒(コロタイプの)印刷物から図柄を復元するだけでなく、色彩をも再現しようとする試みをドキュメンタリータッチで構成した秀逸な番組だった。
白黒写真が、256階調のグレースケールと仮定すれば、フルカラーにおいては、1670万色からどの色かを推定しなければならない。
・当時、白黒(コロタイプ)印刷を行う上で使われた白黒フィルムの分光感度特性の調査。
・当時、北斎が作品に使ったであろう、色材の推定を現存する作品から分析。
・当時、北斎の手法で描かれた場合の、グラデーション手法をプロの絵師に再現してもらいシミュレーションする。
・当時、それぞれの絵柄に登場する病や災害を象徴する鬼達が、どのような文化的背景で彩色されていたかを時代考証する。
それらを総合的に考察し、最終的に、非接触スキャナでスキャニングされた白黒(コロタイプ)印刷物の濃淡と合致する色材候補の中から、特定の色材を特定していく、気の遠くなるような地道な作業。
現在、普及しているオフセット印刷物ではなく、美術作品の記録として優れたコロタイプ印刷であったことが、せめてもの救いであったと思われる。これにより微細な表現と忠実な階調性の記録がなされている。
また、この滑らかな階調を高い光学解像度のまま、正確に非接触で写し取るために使用されたオルソスキャナの活用も重要であった。
現在、この複製画は、すみだ北斎美術館の入り口にドーンと飾られている。
・・・
「当時、北斎が使ったであろう、色材の推定。」
浮世絵に使われている色材の先駆的な研究成果が以下の論文である。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku1952/47/2/47_2_93/_pdf
分析科学 Vol.47, No.2, pp.93-100(1998)
光ファイバーを用いる三次元蛍光スペクトルによる日本古来の浮世絵版画に使用された着色料の非破壊同定
下山進、野田裕子、勝原伸也
この共同研究者の勝原さんは、立原位貫(1951-2015)という作家名で浮世絵版画の再現を目指した彫り師+摺師である。残念ながら、一昨年亡くなられた。
昨年、共同論文執筆者の下山氏が、研究成果の全貌を判りやすく論文にまとめた。
http://kiui.jp/pc/bunkazai/kiyo14/08_shimoyama_pp63-74.pdf
浮世絵の色材研究
浮世絵非破壊分析法の開発研究と浮世絵研究者との出会
下山 進・下山 裕子
文化財情報学研究 第 14 号 文化財情報学研究 第 14 号 pp63-74
ここでは、浮世絵の色材の研究目的のために、さまざまな分光学的な計測手法が開発された経緯が、詳細に綴られている。
(1)3DF分析法:三次元蛍光スペクトル非破壊分析法
※顔料は測定できない。
(2)RI蛍光X線分析法
※NASA火星探査機MarsPathfinder に搭載された装置をヒントに、ハンディーな蛍光X線分析装置を開発した。
(3)Vis-Nir反射スペクトル分析法
※Ocean Optics 光ファイバー式。直径1mmを計測可能。780nm~1100nmの近赤外線域も計測可能。
こうして、江戸時代に 青 として使われていた染料、顔料、
・染料:青花(露草 つゆくさ)、藍
・顔料:プルシアンブルー(鉄とカリウム)
が、どの浮世絵から、採用されたかを、時間軸で科学的に解明された。
素晴らしい成果ですね。
メモ)
■葛飾北斎 冨嶽三十六景(36図)
礫川浮世絵美術館 館長 松井英男(1930-2013)
山口県立萩美術館・浦上記念館(全図所蔵)
■葛飾北斎 諸国瀧廻り(8図)
太田記念美術館
■立原位貫さん
https://www.youtube.com/watch?v=4OsRkISrgHQ
歌川国芳「達男気性競 金神長五郎」)を現代によみがえらせる。
浮世絵復刻の第一人者、版画家の立原位貫さんが挑みます。
出典はNHKのワンダー×ワンダーより
※動画について:
(05:00)あたりで説明している、江戸時代の彫り師の技 1ミリメートルに3本の解説図は、1ミリに2本の図ですね、間違い。
メモ2)国芳 YouTube https://www.youtube.com/watch?v=xvACqA_LVNE&t=5
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