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2009年2月 3日 (火)

蛍光灯からは紫外線が出るので美術館・博物館用に使えない

という話を良く聞きます。

そのため、文化財や、貴重本をイメージスキャナでスキャンする場合、プラテンガラスに対象を直接接触させることに加えて、「蛍光灯から照射される紫外線により劣化するのでは無いか?」と懸念されたり、質問されることが多い。

以前から気になっていたのですが、調べてみました。
低紫外線蛍光灯というものが有りました。
http://www.kms.gol.com/national/natio.htm

これによると、
白色蛍光灯の紫外線放射照度(λ=275〜380nm)が、
7.3(μw/c㎡)/1000 Lx
であるのに対して、美術・博物館用の蛍光灯
0.01(μw/c㎡)/1000 Lx
であるとのこと。
また、
「美術・博物館用蛍光灯は、バルブ内面の蛍光体とバルブの間に酸化チタン膜を設け、波長の長い紫外線を吸収し減少させています。」とのこと。

ここで、波長の長い水銀輝線とは、λ= 365 nmだとのことです。

ここで次ぎの計算や調査をしてみます。
Q1:可視光の1000Lx(ルックス)と紫外光のW(ワット)を同じ単位で比較したら紫外線量は何パーセントなのか?
Q2:365nmの光は、スキャナのプラテンガラスでどの程度カットされるのか。

■計算:
まず、ルックスとワットの換算です。
可視光をエイヤと555nm(緑)で代表させてしまうと、
680 Lx = 680 Lm/m^2 = 1 W/m^2
です。視感度分布という曲線は、555nmを1.0として光エネルギーの単位と関連づけらます。
よって、

白色蛍光灯の紫外線/可視光比率:

7.3(μw/c㎡)/1000 Lx
をエネルギー単位で比較すると、
1000 Lxは、1.471 [W/m^2]
7.3(μw/c㎡)は、0.072 [W/m^2]
となります。
0.072/1.471 = 4.96% となりました。
つまり、『可視光に対して、白色蛍光ランプは365nmの光を光エネルギー(ワット)比にして、5%出力している。』ということになります。
これに対して、博物館専用は、0.01(μw/c㎡)ですから、
『専用蛍光灯は、紫外線が730分の1となって、可視光に対して、365nmの光は、0.007%出力となる。』ということになります。

■スキャナのプラテンガラスの代表的な分光透過率:
板ガラス、フロートガラスを使っています。
厚さはt=2.8mmですので、以下のグラフが参考となります。
管内部から出る紫外線の内、300nm以上は通過することとなります。

λ=365nmにて透過率は40%くらいでしょうか。

http://imeasure.cocolog-nifty.com/photos/fig/transmitance_float_glass.png
www.asahiglassplaza.net/kaiteki/catalogue/sougo_sho/r/all_sho/r/spdfdata/00001_24s.pdf

■検証:水銀蛍光ランプからどんな紫外線が出ているのか?
蛍光灯内面に塗布した蛍光体の発光は可視域と仮定して、水銀そのものから発している輝線スペクトルを調査します。

http://www.handc-techno.co.jp/lineup/lineup_022.html
低圧水銀灯から発せられる水銀輝線スペクトルの波長(とエネルギー強度)
545.80nm (1.83)
435.50nm (3.58)
404.40nm (1.50)
312.70nm (2.08)
265.20nm (0.13)
253.50nm (162.48) ← 測定誤差で、本当は253.7nm
247.80nm (0.10)
(この低圧水銀灯には、なんと、365nmのスペクトルがありません。)
545nmは緑色で問題無い。435nm、404nmも青で問題無い。
プラテンガラスの透過率と見比べると、312.70nmが問題となりそうです。
エネルギー強度比で約、1.3 %(=2.08/162.48)

253.7nmの水銀輝線エネルギーを可視光に変換する蛍光体のエネルギー変換効率は約20%として、(*1)
紫外線:可視光

= 1.3 % :  20 % 

= 6.4 % : 100 %

ということで、およそさっきのWで単位を合わせたときのエネルギー比率
4.96 %
に近い値となった。

ちなみに、
http://t.nomoto.org/spectra/000261.html
には、365nmの輝線スペクトルがしっかり出ている。
もしかしたら、水銀灯の中の水銀蒸気圧と発光スペクトルが関係しているのかも知れません。管壁温度で水銀蒸気圧が敏感に変化しますからね。

あと、損傷係数D/Eってのも気になります。調査したいと思います。
以上です。

*1
「253.7nmの水銀輝線エネルギーを可視光に変換する蛍光体のエネルギー変換効率は約20%」
一般的に、水銀蛍光ランプは、投入される電気エネルギー(W)に対して、
水銀輝線スペクトルへのエネルギー変換効率が 60%
更に、蛍光体が受けた紫外線を可視光として放出する効率が 20%
となっています。
0.2x0.6=0.12
となり、蛍光灯の効率(可視光エネルギー/投入電気エネルギー)は、
0.12 W/ 1Wとなります。
もし、蛍光体の色が、視感度のピークλ=555nmの光のみであれば、
1W = 680 Lmですから、
81.6 Lm/W (=680*0.12)
となります。

ただし、これは、トンネルに使われているあの黄色の水銀灯のような光ですから、
実際には、(視感度の低い)BlueとRedの光を混ぜ合わせる必要があります。一般的に蛍光灯の効率は、 60 Lm/W と言われています。このあたりが理論限界となっているようです。メタルハライドランプは、100 Lm/Wと言われますので、すんばらしいですよね。さらに、有機ELランプとなると、受けた電気エネルギーを可視光に変換する効率が原理的に100%となる(らしい)ので、蛍光灯の5倍くらいはいくのでしょうね。300Lm/Wとか。素晴らしいことだ。城戸先生ガンバ。

■水銀蛍光灯とキセノン蛍光灯

ところで、エプソンの業務用イメージスキャナ ES-2200や、ES-10000G等に使っているキセノン冷陰極蛍光管は、キセノンガスの出す紫外線147nmと185nmが蛍光体を励起して、可視光を発する原理となっている。もちろん、ガラス管をこれら紫外線は通り抜けることができない。また可視域にキセノンガスの輝線スペクトルが無い。つまり、水銀を使った蛍光灯での上記議論は、キセノンガスの場合は全く心配する必要が無い。

具体的には、水銀蛍光灯では、ランプから放出される

λ=365nm、404.40nm、435.50nm 、545.80nmこれらの光がキセノンガスを使った蛍光管からは出ない。

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コメント

長期保存目的の特種な紙を専門とする会社を見つけました。
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http://www.tokushu-papertrade.jp/digimon/con_basic/con-bas01.html
特種紙商事株式会社
紙資料が劣化する外的要因

太陽光や蛍光灯などから発生する紫外線(320〜400nm)は破壊力があり、紙を劣化させます。また、太陽光や白熱灯などから発生する赤外線(760〜1000nm)は、熱放射により紙を劣化させます。
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昨日文化財保存に詳しい方にお会いし興味深い話を伺いました。何故学芸員の方たちに、蛍光灯が光源として忌み嫌われるようになったのか、歴史的な経緯をお聞きしました。
『以前、古文書の複写を閲覧者に許していた際に、「こんにゃく版」という方法で印刷されたメチルバイオレットというインクで書かれた紙の文字が、コピー機の光源が発する紫外線により、消えてしまった。このことがあってから、コピー機による複写を禁止するようになった。』
という経緯があったのだそうです。

以下、こんにゃく版についての説明のあったブログ:
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http://www.tokushu-papertrade.jp/digimon/mon-blog/2008/09/
*こんにゃく版 : メチルバイオレットという紫色のインクで書いた紙を、こんにゃくの面に押し付けてインクを乗せ、湿った用紙に転写させる印刷方式。わが国では、明治10年代から官公庁を中心に使われていた。
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